2009年11月 4日 (水)

ヴェニスの金貸しは強欲か?

いま12月刊ニーアル・ファーガソン『マネーの進化史』(The Ascent of Money)という本の作業中。ざっくりいうと金融史なのだが、信用取引とはなにかを説明するために『ヴェニスの商人』が出てくる。

うん、まあ一応こちとら英文科出身なので、シェイキーのベニショーくらいは読んだことはあるが、細かいとこはあんまり覚えてない。。。。ということで、再読してみる。筋としては、こんな感じ。

貿易会社のCEOのアントニオさん(以下トニ夫)が、金はないけど意中の女性にぜひ求婚したいというアホな親友が借金するときの保証人になる。トニ夫さんは、船が出払っててキャッシュがないので、直接友達に貸せなかったのね。ところがニコニコ金融のシャイロックさん(ユダヤ人)は、このトニ夫が大嫌い。キリスト教では利息を取ることは禁止なので、トニ夫は、それを生業にしてるシャイロックとユダヤ人のことをいつもののしってたわけ。いま、それが友人とつるんで、金を貸してくれときた。ここぞとばかりにシャイっちは、「期限内に返せにゃーなら、おみゃーの肉を1ポンドもりゃーからな!」とアントニオの命を担保に要求。トニ夫は了承。だが、ご利用は計画的に、のはずがトニ夫の船が座礁して、期限に金を返せないことに。。。じつはそのころには例のアホなともだちが逆タマに成功して金はあったんだけど、狂喜乱舞してるシャイっちは金なんかいらんから、トニ夫、お前の肉をくれと、裁判まで起こす。さて、彼等の運命はいかに…

ちなみに著者のファーガソンもいうように、リスクの高い融資の金利が高くなるのはあたりまえ。たとえば政情不安定な国の国債の利回りは大きい。そういう国は借金を踏み倒す可能性が高いから、逆にいうとそのくらいの利子を乗せないと、貸してくれるひとがいなくなる。開発途上国で貧しい人たちが高利貸しからしかお金をかりられず、貧困の罠に嵌まってしまうのは、えてして地元の銀行などが貧しい人たちを「信用」しないからなのだ(実際に返済能力があるかどうかは別として)。

それはともかく、中世ヨーロッパには他に金融機関はなく、ユダヤ人たちは自前の規則で金融業ができないキリスト教徒のために、こうした融資を提供して、経済活動をサポートしてたわけですよ。ユダヤ人=高利貸しのイメージは、たぶん海運という危険な事業に融資するためのリスクプレミアムと、そもそも利子金融自体が禁忌だった時代に利子をとることの相対的印象が合わさったんじゃないかと思う。なので、シェイクスピアがシャイロックを貪欲な獣みたいに描いたのに対し、ファーガソンはシャイロックに同情し、彼等の活動を銀行の始まり、金融史の重要なファクターとしている。

まあ、たぶんここまではなるほどね、と思ってもらえるはずだが、じつは大学の文学部の授業では、こういう金融のことまでは説明されてないと思う。シェイクスピアはその後シャイロックの財産を奪う形で戯曲を終わっているのだが、上の事情を考えると、まあちょっとひどい仕打ちだあね。

さて、ここで疑問。なぜトニ夫はそんな大事な船に保険をかけてないのか?それはこの時代にそんな仕組みがほとんどなかったから!もっと安心して人々が仕事をするためには、さらなる金融イノベーションをまたなければならないのだった。……こんな具合でファーガソンの金融講座は進む。面白いでしょ。いや、ぜひですね、僕みたいにそもそもお金に疎い人にこそ読んでほしい本です。

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