2008年11月 9日 (日)

マイクル・クライトン死去

11月5日にマイクル・クライトンが亡くなった。66歳。

クライトンは私が会社に入ってから会った中で一番の大物作家である。まさに大物――なんせ身長2m以上あったのである。

たしか、最初に会った(といっても片言の英語であいさつしたくらいだが)のは『タイムライン』の単行本のとき(2000年)だったはず。

当時はまだ出版社のウェブサイトはどこもショボショボで、ウチも例外ではなかった。今思うとデザインや技術の面ではまったく恥ずかしいが、新作『タイムライン』を特集する特設ウェブサイトを制作したのは、業界においては先んじた試みではあったはず。クライトンのこれまでの作品を紹介するページ、著者紹介、『タイムライン』のキャラクター紹介、タイムライン・クイズまで、それなりにコンテンツはあったはずだ。

だから早川書房の地下のレストランでのウェルカムパーティでは、クライトンには「エディターなんだけど、タイムラインのウェブサイトもつくった」と言ったと思うが、とにかく相手がデカいので、大人にほめてもらいたいがために自分のしたことを誇らしげにいう子供のような気分がして、恥ずかしくなったのを覚えている。

僕があえていうまでもないが、クライトンという作家はとにかく一流のエンターテイナーだった。微妙な感情を綴るような文学作品ではないが、子供から大人までを楽しませる新しい物語を書き続けた作家だ。予定調和かもしれないが、だからといってページをめくる手を止めさせない。厚い作品が多いが、だいたい一日で読んでしまう。一般に読書は暇つぶしの手段としては携帯やネットに取って代わられつつあるが、クライトンの作品はこんな現代でもまさしく「娯楽」として確立しているのである。

そして毎回、ちょっと時代の先を行くテーマを持ってくるからびっくりだ。ミステリからSF、遺伝子操作、ナノテク、温暖化、そして逆セクハラまで……また一方で美術評論なんかも書いている。こんなマネができる作家はクライトンをおいてほかにいないと思う。もちろん、ノンフィクションの『五人のカルテ』も、結局ドラマ「ER」の原案になった素晴らしい作品だ。どの作品からでも楽しく読める作家なんて、ほかにはいない。もう、新作が読めないと思うと大変残念だ。

僕のお気に入りは『スフィア』かな。最後の心理的なかけひきの場面など、なんだかどうなってしまうのだか、読んでいるこっちがパニックになりそうな圧巻だった。

2008年11月 5日 (水)

負ける出版?

正しく引用できていないかもしれないが、テレビで建築家の隈研吾さんが自分の作風について、目立つことや力強くあることをやめて、環境になじむ建築をするのを「負ける建築」と言っていた。それだけでなく、限られた予算というのはそれが社会の要請なのであり、それを受け入れることを「予算に負ける」と言っていた。

実際には隈さんの建築はそれなりのプレゼンスがあって、言っていることとやっていることが違うという意見もあるのだが、それはまあそれとしても、単純に「負ける」という概念には惹かれるものがある。

一応、語弊があるといけないので付け足すが、大ざっぱにいうと、ここでいう「負ける」は「負けることで勝つ」ということだ。

本づくりの現場でも、基本的には「目立つ装幀」「強力なラインナップ」「心に突き刺さるような惹句(コピー)」を目指している。上手くいっているかどうかは別にしても、どの出版社のどの編集部でも、そういったことを念頭に置いているはずだ。自分の担当の本が売り場にうず高く積んであるのを見るのは悪い気分ではない。

とはいえ、奇抜なタイトルを競い合い、斬新な装幀を競い合い、置場を競い合うのは、正直疲れるのである。ときに、書店に行っても疲れる。大きな看板、大きなタイトル、けばけばしい本の海。どれ買っていいのかわからないというよりも、どれも欲しくなくなってくる。おなかいっぱいのときに写真入りの中華料理のメニューを見せられているようだ。編集者がこんなことを言ってはいけないのかもしれないが、たまにはそんなこともあるのだ。もちろん、書店さんや営業部の努力には感謝と敬意を表するのだが、まあ、そういうこともある。

こうなると「目立つ」ものも目立たなくなる。

ときには、出版においても「負ける」ということも考えるべきかもしれない。これはしかし、非常に難しい。たんに地味に本を作るだけでは、たんに撃沈されて終わりだろう。んなーこたーわかってるw。きっとなじむべき「環境」をつくるところから始めないといけないのかもしれない。なんだかまだよくわからないが、本屋さんのことではなく、本を探す-買う-読む-収納する、のプロセスなんじゃないかと思う。……ここでいう「負ける」は「拙い」ではないし、自然体をプロデュースするのは、実はけっこう金がかかる場合もある。これは難しい。

この先は……まだよくわかりません。何の含みもないですが、ただ、そういうことを考えたということです。

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