マイクル・クライトン死去
11月5日にマイクル・クライトンが亡くなった。66歳。
クライトンは私が会社に入ってから会った中で一番の大物作家である。まさに大物――なんせ身長2m以上あったのである。
たしか、最初に会った(といっても片言の英語であいさつしたくらいだが)のは『タイムライン』の単行本のとき(2000年)だったはず。
当時はまだ出版社のウェブサイトはどこもショボショボで、ウチも例外ではなかった。今思うとデザインや技術の面ではまったく恥ずかしいが、新作『タイムライン』を特集する特設ウェブサイトを制作したのは、業界においては先んじた試みではあったはず。クライトンのこれまでの作品を紹介するページ、著者紹介、『タイムライン』のキャラクター紹介、タイムライン・クイズまで、それなりにコンテンツはあったはずだ。
だから早川書房の地下のレストランでのウェルカムパーティでは、クライトンには「エディターなんだけど、タイムラインのウェブサイトもつくった」と言ったと思うが、とにかく相手がデカいので、大人にほめてもらいたいがために自分のしたことを誇らしげにいう子供のような気分がして、恥ずかしくなったのを覚えている。
僕があえていうまでもないが、クライトンという作家はとにかく一流のエンターテイナーだった。微妙な感情を綴るような文学作品ではないが、子供から大人までを楽しませる新しい物語を書き続けた作家だ。予定調和かもしれないが、だからといってページをめくる手を止めさせない。厚い作品が多いが、だいたい一日で読んでしまう。一般に読書は暇つぶしの手段としては携帯やネットに取って代わられつつあるが、クライトンの作品はこんな現代でもまさしく「娯楽」として確立しているのである。
そして毎回、ちょっと時代の先を行くテーマを持ってくるからびっくりだ。ミステリからSF、遺伝子操作、ナノテク、温暖化、そして逆セクハラまで……また一方で美術評論なんかも書いている。こんなマネができる作家はクライトンをおいてほかにいないと思う。もちろん、ノンフィクションの『五人のカルテ』も、結局ドラマ「ER」の原案になった素晴らしい作品だ。どの作品からでも楽しく読める作家なんて、ほかにはいない。もう、新作が読めないと思うと大変残念だ。
僕のお気に入りは『スフィア』かな。最後の心理的なかけひきの場面など、なんだかどうなってしまうのだか、読んでいるこっちがパニックになりそうな圧巻だった。